公開日:2026/09/25
【採用戦略】ベトナムで「給与だけで競わない採用」へ
~自社で働く魅力を整理し、選ばれる会社になるために~

| ベトナムで採用を行う日系企業から、「給与を相場に合わせても、思うように応募が集まらない」「内定を出した後、他社と比較されて辞退された」「採用のため給与を上げた結果、既存社員とのバランスが難しくなった」といった相談を受けることがあります。 ベトナム経済は引き続き高い成長を続けており、2026年上半期のGDPは前年同期比8.18%増となりました。すべての職種で一律に採用難が進んでいるわけではありませんが、専門職、技術職、管理職など、企業が求める経験人材については激しい競争が続いています。 もちろん、採用する以上、市場に合った給与を提示することは大前提です。しかし、「他社より少し高く提示する」ことだけを繰り返していては、いずれ限界が来ます。そこで今回は、給与条件だけでなく、「この会社で働くと何を得られるのか」を整理し、求人票、Web・SNS、面接まで一貫して伝える採用の考え方について取り上げます。 |
I. 給与だけで競う採用が続きにくい理由
採用が難しいとき、最も分かりやすい対策は提示給与を上げることです。
実際、市場より著しく低い給与では、どれだけ会社の魅力を伝えても採用は難しいでしょう。
一方で、給与だけで競争し続けると、別の問題が出てきます。

第一に、採用コストと人件費が上昇し続けます。
第二に、新しく入社する社員だけ給与水準を引き上げると、同等の役割を担う既存社員との間で給与の逆転が起こることがあります。
そしてもう一つ見落としたくないのが、企業側が給与しか伝えていなければ、候補者側も給与を中心に会社を比較しやすくなるということです。他社からより高いオファーが出れば、そちらが魅力的に見えるのは自然なことともいえます。
だからこそ、給与を適正に設定することと同時に、「給与以外に、なぜこの会社で働くのか」を企業側が説明できることが重要になります。
| 2026年の人材市場を少し違う角度から見る Adecco Vietnamの2026年調査では、主に中堅・上級クラスの回答者の62%が新しい仕事の機会に対して何らかの形でオープンである一方、37%は安定性を重視し転職に消極的でした。優秀な人材が常に転職先を探しているとは限りません。「今すぐ転職したい人」を探すだけでなく、「今の会社を辞めるほど魅力的な機会だと思ってもらえるか」も採用では重要になります。 |
II. 「自社で働く魅力」を言葉にする
人事・採用の分野では、会社が社員に提供できる価値をまとめたものを、EVP(Employee Value Proposition/従業員価値提案)と呼ぶことがあります。
| 本コラムではEVPを、「この会社で働くと、どのような経験・成長・環境を得られるのか」という意味で、以降は「自社で働く魅力」と表現します。給与や福利厚生もその一部ですが、仕事内容、身につく専門性、キャリア、裁量、上司との関係、会社の安定性、職場環境なども含まれます。 |
そして実際には、多くの日系企業がこうした魅力をすでに持っています。ただし、会社の中では当たり前になりすぎて、自社の魅力として認識していないことも少なくありません。
会社の「当たり前」を、候補者にとっての魅力へ

「うちには特別な魅力なんてない」と感じる企業もあるかもしれません。しかし、社員へ話を聞いてみると、「日本本社と直接仕事ができる」「上司が仕事を任せてくれる」「小さな会社だから複数の仕事を経験できる」「技術を丁寧に教えてもらえる」など、会社側が意識していなかった魅力が出てくることがあります。
重要なのは、魅力的なキャッチコピーを作ることではありません。実際に自社が提供できている価値を見つけ、それを候補者にも伝わる言葉へ置き換えることです。
III. まずは活躍している社員に聞いてみる
自社で働く魅力を整理する際、経営者や人事担当者だけで考える必要はありません。むしろ最初におすすめしたいのは、現在活躍しているベトナム人社員へ聞いてみることです。
• なぜ当社への入社を決めたのか
• 他社と比較して魅力に感じた点は何だったか
• 入社してから得られた経験は何か
• 今もこの会社で働き続けている理由は何か
• 友人から「どんな会社?」と聞かれたら、どのように説明するか
会社側が「当社の魅力は安定性」と考えていても、社員は「上司が自分の意見を聞いてくれること」に価値を感じているかもしれません。反対に、会社側が強みだと思っているものを、社員はそれほど評価していない場合もあります。
| 採用メッセージを作る前に 実際に働いている人の声を聞く。少し遠回りに見えますが、説得力のある採用活動を行ううえでは非常に大切な作業です。 |
IV. 求人票を「募集条件の一覧」で終わらせない
自社の魅力が整理できたら、次に求人票(JD)を見直します。求人票では通常、業務内容、応募条件、経験年数、語学力、給与、福利厚生などを記載します。もちろん、これらは必要です。
しかし、これだけでは候補者にとって「その会社で働くと何が得られるのか」が見えないことがあります。
同じ仕事内容でも、伝え方で見え方は変わる
| 変更前 | 変更後(働く魅力を加えた表現) |
| 業務内容:ローカルスタッフ管理、報告書作成、顧客対応 | 期待する役割:新設チームの中核メンバーとして、ローカルスタッフの育成と業務体制づくりを担当。拠点責任者と近い距離で仕事を進め、今後の事業拡大に伴い、将来的には現地管理職として組織運営にも関わっていただくことを期待します。 |
このように、「何をするか」に加えて、「なぜその仕事をするのか」「その先に何があるのか」まで伝えると、同じ求人でも印象は変わります。
| 注意したいポイント 実際には用意していないキャリアや裁量を魅力として書くことは避けなければなりません。採用時の説明と入社後の実態が違えば、せっかく採用しても早期離職につながります。 |
V. 求人票だけではない。「候補者が会社を見る場所」を整える
ここ数年、もう一つ意識したいのがWebやSNSを含めた会社の見え方です。
Digital 2026: Vietnamによると、2025年末時点でベトナムには約7,900万のSNSユーザーIDが確認され、Facebookの広告到達可能人数も約7,900万人、TikTokでは18歳以上で約7,610万人とされています。これらは実利用者数とそのまま同一視できる数字ではありませんが、SNSが日常的な情報接点になっていることは分かります。
採用においても、候補者が求人票だけを見て応募するとは限りません。求人を見た後に会社名を検索し、WebサイトやFacebook、LinkedInなどを確認し、場合によってはTikTokなどで会社の雰囲気を探すことも考えられます。
候補者が「会社を知る場所」は一つではない

| 大切なのはSNSの数ではありません 「ではTikTokを毎日更新しなければならないのか」と身構える必要はありません。企業によって採用する人材も、使うべきチャネルも異なります。大切なのは、候補者がどの接点で会社を見ても、大きく違う印象を受けない事です。 |
例えば、社員紹介、社内研修の様子、オフィスや職場風景、社内イベント、新しいプロジェクト、ベトナム人社員の活躍、日本本社との交流など、会社の実態が少し見える情報があるだけでも候補者にとっては判断材料になります。
求人票に「社員を大切にする会社」と書くより、実際に社員が学んでいる様子が見える方が伝わることもあるでしょう。SNSは単に求人広告を掲載する場所ではなく、自社で働く姿を候補者に想像してもらう場所として考えることができます。
VI. 面接は「選ぶ場」であると同時に「選ばれる場」
採用面接では、当然ながら候補者の経験や能力を確認します。しかし、特に経験人材の場合は、候補者側も複数の企業を比較しています。その意味で面接は、企業が候補者を選ぶ場であると同時に、候補者から企業が選ばれる場でもあります。
面接では仕事内容や条件だけでなく、次のような点まで伝えたいところです。
• なぜ今回このポジションを採用するのか
• 入社した人にどのような役割を期待しているのか
• この会社だから経験できることは何か
• 3年後、どのような役割を期待しているのか
同時に、候補者にも「今回の転職で何を実現したいですか」「次の会社でどのような経験を積みたいですか」と確認します。
例えば候補者が「マネジメント経験を積みたい」と考えているのに、会社が「安定した日系企業です」とだけ説明しても、必ずしも心には響きません。一方、その会社に実際にチームを任せる機会があれば、その接点を具体的に説明できます。
| 面接で確認したい接点 会社が提供できるものと、候補者が転職で求めているものが合っているか。ここまで確認することが、入社後のミスマッチを減らすことにもつながります。 |
VII. 自社の「採用魅力度」チェックリスト
以下の項目を、一度確認してみてください。

複数の項目で「できていない」と感じる場合は、求人条件を変更する前に、自社の採用メッセージそのものを一度整理してみるのもよいかもしれません。
VIII. まとめ:「給与で採る」だけでなく、「働く意味で選ばれる」会社へ
ベトナムで優秀な人材を採用する以上、市場に合った給与を提示することは欠かせません。今回紹介した「自社で働く魅力」を整理する考え方は、給与を上げなくても採用できる方法ではありません。
適正な給与を前提としながら、「この会社だから経験できること」「この会社だから成長できること」「この会社で将来どのような役割を目指せるのか」を候補者に伝え、給与以外にも会社を比較してもらえる材料を増やす考え方です。
そして、それは採用担当者だけが作るものでもありません。実際に働いている社員の声、求人票、会社WebサイトやSNS、面接官の説明、そして入社後の職場環境までがつながって、初めて会社の採用イメージは形づくられます。
| 最初の一歩として まずは、自社で活躍している社員に「どうして当社に入社したのですか?」「なぜ今も働いているのですか?」と聞くところから始めてもよいかもしれません。意外と、その答えの中に、これまで会社側が気づいていなかった「自社が選ばれる理由」が隠れていることがあります。 |
来期の採用計画を考える際には、給与相場を確認するだけでなく、自社が候補者にどのような価値を提供できるのかも、一度整理してみてはいかがでしょうか。
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