公開日:2025/10/03
【人事コンサルティング】ベトナムにおける優秀人材の離職率改善戦略
─日系企業の課題と実践的アプローチ─
1. はじめに:定着率改善は「コスト」ではなく「未来への投資」
ベトナムは近年ASEAN諸国の中でも高い経済成長を維持しており、2023年のGDP成長率は5.05%、2024年には7.09%が達成されました、また今年の見通しも6.7%高い水準の見通しです。人口は1億人を超え、その半数以上が35歳以下という若年労働人口の多さが特徴です。
このような魅力的な労働市場に多くの日系企業が進出していますが、最大の課題の一つは「優秀人材の定着」です。現地社員の平均勤続年数は2〜3年ともいわれ、特にキャリア志向の強い現地優秀人材の離職率は高い傾向にあり、中には年間30%を超える高い離職率に悩む企業も少なくありません。この高い離職率は、欠員補充のための採用コスト増、引き継ぎによる業務生産性の低下、そして残った社員の士気低下など、組織全体に甚大な悪影響を及ぼします。この問題を解決することは、単なるコスト削減ではなく、組織の安定化と持続的成長を保証する未来への投資です。
本コラムでは、ベトナム市場における離職の背景にある特有の要因を分析し、それらを効果的に改善するための具体的なリテンション(人材定着)戦略を解説します。
2. ベトナム人材の主要離職要因
各調査レポートなどを総合すると、離職の主要因は以下の3点に集約されます。
1:キャリアアップ機会とスピード
✅昇進スピードや成長実感が得られないと、早期に転職を選択する傾向が強い。
ベトナムの現地社員は、平均勤続年数が約2~3年と短く、「ジョブホッピング」がキャリアアップの一般的な手段として認識されています。彼らは、明確なスキルアップや昇進の機会がない場合、待たずに転職を決断する傾向があります。各レポート等によると、「自身のキャリアパスが見えない」ことが、離職意向を高める最大の要因となっており、給与よりも将来の成長可能性を重視する姿勢が明確に表れています。
2:人間関係・心理的安全性
✅上司との関係性や職場内の人間関係が不安定だと離職に直結しやすい。
ベトナムでは、家族や所属するコミュニティへの帰属意識が強く、特に組織内での調和を大切にされます。そのため、人間関係の軋轢や、上司・先輩からの過度なプレッシャーや批判は、離職の直接的な引き金になりやすいです。また年長者を敬う文化から、現地社員は上司に対して意見を言いにくく、不満や問題点を抱え込み、相談する前に退職を決意してしまうケースが多く見られます。
3:給与・待遇
✅転職がキャリアアップの近道と捉え、市場価値に見合った報酬を求めて転職する。
ホーチミンやハノイといった主要都市では、インフレ率が高く、生活費が急速に上昇しています。そのため、生活水準を維持・向上させるために、報酬への関心は非常に高いです。転職市場では、経験者が現職給与から10〜20%程度の昇給を要求することも多く、企業は報酬体系が市場競争力を維持しているか、定期的に確認する必要があります。
3. 定着率を改善する3つの戦略
戦略1:キャリアの「見える化」
昇進基準や必要スキルを明確化し、キャリアロードマップとして社内で共有することが不可欠です。また、個別育成計画を通じて、例えば3ヶ月ごとに達成すべき具体的なスキル目標を設定し、社員に成長の実感を持たせることが定着率改善につながります。実際に、キャリアパスの透明性が高い企業はそうでない企業に比べて離職率が低いという調査結果も報告されております。
戦略2:心理的安全性の確保
例えば1on1面談を通じ、単なる業務進捗報告ではなく心理状態やキャリア不安をテーマにした対話を行うことがより社員の心理的安全・安心を醸成するので推奨されます。また、半年ごとのエンゲージメントサーベイ等を活用し、職場の不満を可視化・改善する仕組みを構築すると効果的です。
戦略3:報酬・福利厚生の競争力確保
市場水準を定期的にベンチマークし、自社の給与体系や昇給率が競争力を維持しているか確認します。また、ベトナム特有の要素として「テト(旧正月)ボーナス=13ヶ月目給与」は不可欠であり、さらに住宅手当や交通費補助、健康保険のアップグレード、食事手当、語学学習補助といった柔軟な福利厚生を提供することで、多様な社員ニーズに対応することが可能となります。
4. 実行フロー(PDCAサイクル)
1. PLAN:離職率改善目標の設定と要因分析
2. DO:施策実行(キャリア可視化、1on1、報酬ベンチマーク)
3. CHECK:効果測定(離職率、エンゲージメントスコア、社員ヒアリング)
4. ACTION:改善(成功施策は横展開、効果が薄い施策は修正)
定着率の改善は、目標設定、施策実行、効果測定、改善のPDCAサイクルを継続的に回すことで達成されます。特に効果測定の段階で、サーベイやヒアリングを重視することが重要です。この継続的な改善こそが、組織文化として定着を生み出します。
5. まとめ:継続的な「成長機会」の提供こそが最良のリテンション
ベトナムにおける人材定着の本質は「社員を引き留める」のではなく「社員の成長を支援する」ことにあります。明確なキャリアパスと、それを実現するための心理的・物質的なサポートを継続的に提供することで、社員は企業に対する信頼とロイヤリティを高め、結果として自社で働き続けるという選択をします。
本コラムが、貴社のベトナム法人が現地優秀人材の定着率という喫緊の課題を乗り越え、持続的な成長を遂げるための一助となれば幸いです。
ベトナム現地法人の人材定着や人事戦略に関する課題は、ぜひ当社にご相談ください。貴社の文化と事業戦略に合わせた最適なリテンション戦略、育成制度構築、そして人事評価制度の構築など人事労務に関する内容を幅広くご支援いたします。