公開日:2019/12/20
ベトナム労務シリーズ③ 労働組合2
1 はじめに
前回に引き続き、今回もベトナムにおける労働組合について説明します。前回は労働組合設立や組合費を中心に説明しましたが、今回は会社と労働組合のその他の場面での関わりについて記載します。
今まで何度か別の記事でも言及していますが(下記の過去の記事をご参照下さい)、自社内に労働組合がない会社であっても上級労働組合という地域に存在する労働組合があり、自社内の労働組合と同様に機能する建前となっていますので、是非目を通してみて下さい。
※過去の記事
https://919vn.com/column/labor-management2/(ベトナム労務シリーズ② 労働組合1)
https://919vn.com/column/labor-management1/(ベトナム労務シリーズ① 就業規則編)
2 労働組合の役割
ベトナムの労働組合法10条の表題は「労働者の代理人となり、労働者の法的な権利及び利益を保護すること」となっています。この表題の通り、ベトナムにおける労働組合の第一義的な意味は、労働者の権利及び利益保護です。そのため、労働組合は①労働協約の交渉、②就業規則・賃金テーブルの作成への関与、③労働紛争への関与及び労働者代表者としての訴訟等の提起、④ストライキ指導、⑤労働者を代表して会社と定期的に対話を行うこと、これらのことについて権利・義務を有します。
3 各場面における労働組合の関与
1)労働協約の交渉
労働協約とは「労働者集団と使用者が団体交渉で合意した労働条件に関する両当事者間の合意書」をいいます(労働法73条1項)。
労働協約※は、会社に締結義務があるものではありませんが、労働者の労働環境を向上させるため会社と労働者との間で締結される賃金や勤務時間等に関わる契約です(労働法70条参照)。団体交渉は、労働組合が労働者の代理人として行い、労働協約が締結される場合には、労働組合の代表者が署名をしなければなりません(労働法83条1項a号・労働組合法10条2項・政令05/2015/ND-CP18条1項a号)。
※労働協約には、事業者内労働協約や産業別労働協約等が存在しますが、ここでは事業者内労働協約を前提とした記載をしています。
2)就業規則・賃金テーブルの作成への関与
就業規則の作成に当たっては労働組合に対する意見聴取が必要となります(労働法119条3項)。賃金テーブルの作成についても同様です(労働法93条2項・労働組合法10条3項)。労働者に賞与を支給する場合には、賞与規則を作成する必要がありますが、この場合にも労働組合の意見聴取が必要となります(労働法103条2項)。
3)労働紛争への関与及び労働者代表者としての訴訟等の提起
労働者へ懲戒処分を行う際には、懲戒手続の場に労働組合の執行委員会の出席が必要的になります(労働法123条1項b号・労働組合法10条6項)。
労働者集団または労働者個人の権利利益が侵害された場合には、被侵害者の権利利益を回復するため代理人として裁判所への提訴権を有します(労働組合法10条8項)。
4)ストライキ指導
労働組合は、法令に従ってストライキを組織し指導するとされています(労働組合法10条 10項)。
ベトナム労働法におけるストライキの要件は厳格です。例えば、ストライキで会社に要求出来る内容は利益に関するもののみで、権利に関する要求は認められていません(労働法209条2項)。そのため、賃上げを要求してストライキを起こすことはできますが、給与の未払いが生じている場合に給与の支払いを求めてストライキを起こすことは認められていません。
手続要件についても詳細な規定が存在します。まず、集団労働紛争に関する労働仲裁委員会の調停について、①労働仲裁評議会が調停調書を作成した日から5日を経過しても成立した合意が履行されない場合、又は②調停不成立調書が作成されてから3日後以後にストライキ決行手続が実施できます(労働法206条3項)。ストライキの決行に当たっては労働者集団への意見聴取が必要で(労働法211条1項・212条)、かつ聴取した意見の過半数が労働組合執行委員会の案に賛成しなければストライキを行うことはできません(労働法213条1項)。そしてストライキの開始の少なくとも5営業日前までに使用者・省レベルの国家管理機関・省レベルの労働組合のそれぞれに通知しなければなりません(労働法213条3項)。
このようにストライキの実施要件は非常に厳格ですが、ベトナムで実施されるストライキの大半が手続要件を満たさない違法なストライキといわれております。しかし法令上は、労働組合にはこれらの規定にしたがってストライキを組織し指導することが求められています。
5)労働者を代表して会社と定期的に対話を行うこと
労働法上、会社は3ヶ月ごとに1回、または要求があった場合に労働者との対話を実施しなければならないとされています(労働法65条1項)。この対話の具体的な形式は使用者と、労働組合の執行委員会、もしくは上部労働組合の執行委員会の代表者、および被雇用者の会議により選出された労働組合の代表者と行われます(政令60/2013/NÐ-CP号11条2項)。
執筆者:弁護士法人キャストホーチミン事務所の島崎雄太郎さん
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