公開日:2022/01/14
2022年から施行されるベトナム法令等について
1. 送出し機関に対する規制の強化
ベトナム人の日本在留者数が爆発的に増えることの原因となった技能実習制度ですが、日本の同盟国であるアメリカの国務省が発表した世界各国の人身売買に関する2021年度版の報告書において、日本における同制度が外国人労働者搾取のために悪用し続けられていると言及されるなど、国際的には厳しい非難にもさらされています。特に同制度の問題点として、実習生側が徴収される手数料等が大きな負担となっていることが問題視されていました。こういった批判を受けてのことと推測しますが、送出し事業に関わる法令が一部変更されています。
1)送出しに関する新しい法令
以下の新たな法令が2022年から施行されます。
a. 契約に基づいて外国で働くベトナム人労働者に関する法律(法律69/2020/QH14号。以下、「海外労働者派遣法」といいます。2022年1月1日施行)
b. 海外派遣法の詳細に関する政令(政令112/2021/ND-CP号。以下、「政令112号」といいます。2022年1月1日から施行)
c. 海外派遣法の詳細に関する通達(通達21/2021/TT-BLDTBXH号。以下、「通達21号」といいます。2022年2月1日から施行)
2)上記新しい法令の施行に伴う重要な変更点
主要な変更点は以下の三点であると考えます。
・送出し機関が仲介料(ベトナム語: Thu tiền môi giới)の名目で労働者(技能実習生)から金銭を徴収することが禁止されました(海外労働者派遣法第7条第8項。以前施行されていた通達16/2007/TT-BLDTBXH-BTC号(以下、「通達16号」といいます)では、当該行為は禁止されていませんでした)。
・送出し機関が労働者(技能実習生)の紹介者(斡旋・仲介業者。ベトナム語:tổ chức, cá nhân trung gian)に対して支払う仲介料は、12か月の就労で発生する労働者(技能実習生)の給与の0.5倍、就労期間が36か月以上の場合は、1.5倍を超えてはならないと定められました(通達16号では、12か月間の就労期間の場合、給与の1.5倍までの金額を仲介料として徴収することが認められていました)。
・送出し機関は、ベトナムの銀行または海外銀行の支店に、20億VNDの保証金を預託しなければならず、送出し機関が送出し事業を行う支店を有する場合には、当該支店一つにつき5億VNDの保証金を追加する必要があります(以前は、10億VNDの預託を行えば足りました)。
2. 外国人の強制社会保険料の引き上げ
1)引き上げ率について
ベトナムで就労する外国人労働者に対する強制社会保険に関する政令143/2018/ND-CP号(2018年12月1日施行)に基づき、2022年1月から外国人労働者に対する強制社会保険料が引き上げられます。
2022年1月1日以降、外国人労働者は年金・死亡手当基金への加入が義務付けられることになり、会社負担が14%、外国人労働者負担が8%となります。
◆外国人労働者に関わる保険料率の一覧表
使用者負担 | 労働者負担 | 計 | |||||
医療保険 | 疾病・妊娠・出産 | 労災・職業病 | 年金・死亡 | 医療保険 | 年金・死亡 | ||
~2021年12月31日 | 3% | 3% | 0.5% | なし | 1.5% | なし | 8.0% |
2022年1月1日~ | 3% | 3% | 0.5% | 15% | 1.5% | 8% | 30% |
※ 社会保険料の算出に用いられる給与については、公務員の最低賃金の20倍が上限の金額となります。そのため、本稿執筆時点(2022年1月10日)では、149万VNDの20倍である2980万VNDを上限として社会保険料が計算されることになります。
2)強制社会保険の加入対象とならない労働者
企業内人事異動に該当する労働者については、強制社会保険の加入対象となりません。一般的には駐在員の方はこれに当たらない場合が多いはずですが、労働許可証の取得手続きに不備等がある場合には、企業内人事異動に該当しないこともあり得るので注意が必要です。
※企業内人事異動に該当する労働者については、下記の記事(ベトナムにおける外国人労働者の労働組合費の負担について)中の第3項「強制社会保険対象となる外国人労働者とその例外について」に詳細を記載していますので、気になることはそちらをご参照ください。