公開日:2025/11/28
【人事労務コンサルティング】ベトナムにおける人材の離職率改善戦略Ⅱ
―事例で学ぶ、テト明け離職を防ぐ具体策―
2025年も11月も後半に入り、皆様においても年末及び2026年に向けて特にお忙しい時期を過ごされている事とではないでしょうか。
以前のコラムで【優秀人材の離職率改善戦略】と題し、企業の課題を分析し、「公平な評価制度」と「明確なキャリアパス」を軸とした戦略的なアプローチについて解説しました。
【人事コンサルティング】ベトナムにおける優秀人材の離職率改善戦略 ─日系企業の課題と実践的アプローチ─ – ホーチミン転職・就職 クイックベトナム
今回は、その優れた離職率改善戦略が活かされる、ベトナムビジネスを行っている多くの方が課題にされている「テト(旧正月)賞与後の離職対策」に焦点を当てます。

多くの経営層や責任者の方から毎年このようなお話をお聞きします。
「期待を込めて賞与を払ったのに、テト明けにあっさりと辞表を出された……」
今回は、以前お伝えした本質的な組織論を踏まえ、この「テトの壁」を乗り越えるための具体的な実践策を、業種・職種別にお伝えいたします。
1. 離職対策の第一歩:階層別の「重視ポイント」を理解する
従業員が退職を決める「トリガー(引き金)」は、働く環境によって大きく異なります。リソースを集中させるためにも、ターゲット層の価値観を把握することが重要です。

このように、工場作業員に「ビジョン」を熱く語っても響きにくく、逆にITエンジニアに「食堂の改善」だけを訴えても離職は止まりません。それぞれのツボを押さえる必要があります。
2. 【実践!テト前3ヶ月の行動計画】業界別・具体的リテンション戦略
ここからは、より具体的に見ていきましょう。
🎯 ケースA:製造業(数百名規模の工場)向け戦略 – 「公平性」と「安心感」の浸透
目的: 人数が多く個別面談は不可能。噂が回りやすく、集団離職のリスクがあるマス層に対し、「会社は全員を公平にケアしている」という安心感を醸成する。
🛠 製造現場向け:3つのキーアクション
1. 評価基準の「見える化」(透明性の確保)
アクション: 曖昧な説明は避け、「出勤率〇%以上、不良品発生率〇%以下ならB評価=賞与〇ヶ月分」といった計算式(マトリクス)を掲示板や朝礼で周知する。
効果: 「評価者の好き嫌いで決まっている」という不満を払拭し、公平性を高める。
2. 「生活支援」のアピール(インフレ対策)
アクション: 現金支給に加え、テトギフト(家族向けギフト)を手渡し、労働組合と連携して「来期の基本給ベースアップを検討中」といったポジティブな情報を公開する。
効果: 賞与とは別に「会社が生活をケアしている」という安心感を醸成する。
3. 職場環境の「物理的」改善
アクション: 作業員アンケートに基づき、「工場の扇風機増設」や「社員食堂のメニュー改善」など、毎日実感できる低コストな改善をテト前に実施・発表する。
効果: 作業員の満足度に直結し、定着率を高める。
🎯 ケースB:一般企業(貿易・IT・サービス等)向け戦略 – 「個別期待」と「成長機会」の提示
目的: スキルアップ志向が強く、ジョブホッピングしやすいコア人材層に対し、「ここで働くことが、あなたの市場価値を高める」という動機づけを行う。
目的: スキルアップ志向が強く、ジョブホッピングしやすいコア人材層に対し、「ここで働くことが、あなたの市場価値を高める」という動機づけを行う。
💻 オフィスワーク向け:3つのキーアクション
1. 「来期のプロジェクト」へのアサイン
アクション: 賞与面談時に、「来年4月から始まる新規プロジェクトのリーダーを任せたい」など、具体的な役割を伝える。
効果: 「続けることで自身の価値を高められる、辞めたらこのチャンスを失う」と思わせることで、テト明けの転職活動を思い留まらせる。
2. 教育・研修予算の提示
アクション: 「日本語N2取得のための学費補助」「外部セミナーへの参加費負担」など、成長への投資を約束する。
効果: 現金の賞与以上に「スキルアップの機会」を重視する層のモチベーションを刺激する。
3. 柔軟な働き方の提案
アクション: 給与で勝てない場合、「リモートワークの日数増」「フレックスタイムの導入」といった、働きやすさによる差別化を図る。
効果: 都市部のホワイトカラー層が重視するワークライフバランスの改善を訴求する。

3. 【事例】効果があった企業の取り組みケース
ここで、弊社のお客様で実際に離職率改善に成功した事例をご紹介します。
🛠 製造業事例(ハノイ近郊・部品メーカー)
Before:
賞与は一律1.5ヶ月支給していたが、評価基準が曖昧で、「なぜあの人が?」という不満からテト明けに15%が離職。
After:
● 評価制度の導入: 「出勤率」と「生産個数」によるシンプルな加点方式を導入し、ポスターで掲示。
● 環境改善: 作業員からのアンケートを実施し、不満の多かった「バイク置き場の屋根設置」と「冷水機の増設」をテト前に実施。
結果:
「会社は意見を聞いてくれる」という信頼が生まれ、テト明けの離職率が5%以下に激減。
💻 IT企業事例(ホーチミン・オフショア開発)
Before:
エンジニアの採用難易度が高い中、給与競争で負けてしまい、中堅層が2〜3年で辞めてしまう。
After:
● キャリアパス面談: 賞与支給時に「3年後のエンジニアとしてのキャリアプラン」をCTOが1対1で話し合う場を設定。
● 日本研修制度: 「年間MVPは日本本社へ2週間の研修旅行」というインセンティブを発表。
結果:
給与額では他社に劣っても、「この会社で技術を磨きたい」「日本に行きたい」というモチベーションが生まれ、コア人材の定着率が大幅に向上。
4. ベトナム労働市場の変化と今後の対策
「これからのベトナム労働市場」の大きな変化について共有します。
かつてのベトナムは「安価な労働力」が魅力でしたが、現在は「労働者の権利意識の高まり」と「ジョブ型雇用の定着」が進んでいます。特にZ世代を中心とした若手層は、SNS等で他社の情報を容易に入手するため、企業を見る目は年々シビアになっています。
この状況下で、企業側に求められる対応は以下となります。
1. 「採用までが最大の評価」からの脱却:
採用時には良い条件を出すが、入社後の昇給・賞与が渋い企業の社員が早期に離職してしまう可能性が高くなります。既存社員の昇給率を採用市場の相場に合わせた評価をする改革が必要です。
※特に韓国及び中国の投資が活発となり相場が高くなってきておりますので、日系企業以外の動向も注視しておく事がポイントとなります。
2. リテンションのKPI化:
離職率を単なる数字として見るのではなく、「入社1年以内の離職率」「ハイパフォーマーの離職率」などに分解し、経営課題としてKPI化してモニタリングすることが重要です。
🔔 まとめ:テト賞与は「現在を認め未来の期待を示す」
【テト対策・成功の鍵】
● 製造業(マス層): 「公平性」と「環境改善」を訴求し、安心して働ける土台を作る。
● 一般企業(コア層):「成長機会」と「個別期待」を提示し、会社にいるメリットを明確にする。
社員が会社に何を求めているかを見極め、賞与というタイミングを使って的確なメッセージを届けることが、これからの組織安定のカギとなります。
本コラムが、貴社のベトナム法人が人材の定着率という喫緊の課題を乗り越え、持続的な成長を遂げるための一助となれば幸いです。
ベトナム現地法人の人材定着や人事戦略に関する課題は、ぜひ当社にご相談ください。貴社の文化と事業戦略に合わせた最適なリテンション戦略、育成制度構築、そして人事評価制度の構築など人事労務に関する内容を幅広くご支援いたします。
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