公開日:2021/01/15
ベトナムにおけるパートタイム労働者について
1. はじめに
日本であれば、経済的合理性の観点から、正社員を雇うほどでもない仕事についてはパートタイムの労働者を雇って仕事を任せることもあるかと思います。しかし、私自身、ベトナムでは、あまりパートタイムの労働者についての話を耳にすることがありません。そこで、今回はベトナムのパートタイム労働者について記載していこうと思います。
2. パートタイムに関わる労働法の規定
ベトナム労働法(45/2019/QH14。2021年1月1日より施行。)の32条にパートタイム労働者に関する規定が存在します。当該条項については、下位法令(ガイドライン政令等)に関連する規定がなく、パートタイム労働者に関する法令の具体的な規定は、当該規定のみとなっています。
同規定には、概略以下の事項が規定されています。
・通常の労働者(正社員)よりも一日、または一週間あたりの労働時間が短いこと
・労働者にはパートタイムの労働契約を締結する権利があること
・パートタイム労働者は正社員との関係で、差別的な取り扱いを受けないこと
※以下、法令の翻訳はすべてJETROの翻訳に基づきます。https://www.jetro.go.jp/world/asia/vn/business/
労働法32条 1.短時間労働者とは,労働に関する法令,集団労働協約,又は就業規則に規定された1日あたり,1週あたり又は1月あたりの通常の労働時間と比較してより短い労働時間の労働者である。 2.労働者は,労働契約締結の時に,使用者と短時間労働を合意する。 3.短時間労働者は,賃金の支払いを受け;通常の労働者と平等の権利,義務であり;機会の平等を受け,取扱の差別を受けず,労働安全衛生を保証される。 |
3. 差別的な取り扱いが禁止される例
以上の労働法32条に定められているとおり、ベトナムにおいては、正規の労働者(パートタイムではない労働者)とパートタイムの労働者間において異なる取扱いをすることを禁止してます。具体的に問題となりそうな場面について以下に記載します。
1)契約の更新
例えば、契約の更新の場面においては、その他の正規有期労働社員と同じで、有期契約の更新は一回のみでき、二回目以降の更新を行おうとすると、以後は無期契約としなければなりません。
この点、ローカルの会社等においては更新が複数回なされている実態もあるようですが、法令の解釈上は以下の理由により、複数回の更新は認められないものと考えます。
有期労働契約の更新を1回に制限する20条2項c号は、その但書において、更新を1回に制限することについての例外を定めておりますが、同但書は、パートタイムの労働者には何ら言及していません。
労働法20条2項c号 c) 両当事者が締結した新しい労働契約が有期限労働契約である場合,もう一回のみ締結できる。その後,労働者が依然として引き続き働く場合は,無期限労働契約を締結しなければならない。但し,国家資本を有する企業で社長として雇用される者との労働契約及びこの法典の149条1項,151条2項,177条4項が規定する場合を除く。 |
上記の但書に言及されている149条1項および151条2項が、高齢労働者と外国人労働者については、複数回有期契約を更新できる旨を明示していることからすると、パートタイムの労働者については、同様の規定が存在しない以上、契約の更新について通常の労働者と区別することは許容されないものと考えます。
労働法149条1項 1.高齢の労働者を使用する場合,両当事者は有期限労働契約を多数回締結する合意をすることができる。 労働法151条2項 2.…ベトナムで外国人労働者を使用する場合,両当事者は有期限労働契約を多数回締結する合意をすることができる。 |
2)社会保険
社会保険についても、正規社員と同等の取り扱いをしなければなりません。すなわち、当該労働者の月の勤務日数が14営業日を越えない場合をのぞき、パートタイムの労働者であってもその社会保険料を負担しなければならないことになります(決定595/QD-BHXH第42条4項に基づく)。
4. 異なる取扱いが許される例
以上で述べてきたとおり、原則として正規社員とパータイムの労働者については、平等な取り扱いが必要とされていますが、最低賃金に関わる政令の規定の適用については、別途の取り扱いが可能と考えます。
最低賃金について定めた政令90/2019/ND-CP号(以下「政令90号」といいます)5条1項によれば、当該最低賃金は、通常の労働条件で、必要とされる月あたりの労働時間以上を勤務する労働者に適用されると規定されています。パートタイムの労働者は、この条件に当てはまらないので、同政令が当然に適用されわけではないと考えます。
もっとも、労働法32条3項によれば、通常の労働者と同等の権利を有することが規定されているので、時給(または日給)あたりの賃金については正社員と同等の条件にすることが必要と考えます。
そして、パートタイム労働者が、通常の労働者(正社員)と労働条件が異なることは契約書上明確にされている必要があるので、可能なかぎり、労働契約書には、月の勤務時間(勤務日数)が明確に計算できるように条件(月当たりの勤務日数、1日当たりの勤務時間等)が明記されていることが望ましいといえます。
5. まとめ
以上のように、ベトナム法上においては、パートタイム労働者と正規労働者の待遇が原則として同じでなければならないと規定されているため、パートタイム契約を締結するメリットを企業側が感じず、イベントや小売業等のアルバイトなどを除いて正規社員を主体として雇用する流れになっているものと推測します。