公開日:2020/05/22
ベトナムにおけるEC事業についての概要
1 初めに
今回はベトナムにおけるEC(電子取引)事業について法令の規定等の内容を中心に述べていきます。本稿でいうEC事業とは、オンラインモール(インターネット上で複数の商店のページを一つのサイトにまとめて、様々な商品を販売するウェブサイト)や、自社の製品やサービスをインターネット上に置いた独自運営のウェブサイト(以下「セールスECサイト」といいます)で販売することを念頭において記載しています。
ドメイン等が海外にあるサイトを用いてEC事業を行うことについて直接的にその運営を規制するベトナム法令はこの記事の執筆時にはありませんが、海外サイトから直接ベトナム国内に商品を販売している事例は少ないのが実情です。そこで本稿では、外資企業がベトナム国内でEC事業(ドメインがベトナムにあるウェブサイトを利用してEC事業)を行う場合について述べることとします。
なお、実際のEC事業の運営に当たっては、ビジネススキームや取扱商品によって多種多様な規制が関わってくるので、その全てについて記述することはできません。本稿はあくまで概要的なものとしてお読みください。
2 E-commerce trading floorとSales e-commerce
ベトナムの法令上、EC事業を行う為のウェブサイトは以下のように区別されます。
まず、前記でいうところのオンラインモールについてはベトナムではE-commerce trading floorと定義されています(政令52/2013/ND-CP(以下「政令52号」といいます。政令52号は政令08/2018/ND-CP号によりその内容が一部修正されており、以下で言及しているのは修正後のものです。)25条2項)。
自社製品を販売するウェブサイトは、Sales e-commerceと呼ばれています(政令52号25条1項)。
3 計画投資局に対する事業ライセンスの登録と外資規制
ベトナムで事業を行う場合、投資局に対して、行う事業に応じたVSIC コードの登録が必要となります(このVSICコードのことを以下「事業ライセンス」という場合があります)。
※以下、通関や運送に関わる事業部分をサイト運営者自ら行うことは想定しておらず、それらに関わる事業ライセンスについては記載しません。
1)オンラインモールについて
事業ライセンスについての詳細は、決定27/2018/QD-TTg(以下「決定27号」といいます)に規定されています。
決定27号の規定によればオンラインモールを運営するに当たっては、Web portals;VSICコード6312又は未分類その他のビジネスサポート業務;VSICコード8299のいずれかのビジネスライセンスの登録が必要と考えます。どちらとすべきかについては法令上はっきりとわからない状況ですが、ベトナムの外資大手4社(LAZADA、Tiki、SHOPEE、Sen Do)の公開されている事業ライセンス情報によれば、VSICコード6312が2社、VSICコード8299が2社それぞれ登録されていますので、いずれかのビジネスライセンスの登録は必要であり、最終的な判断は各地の投資局に委ねられているものと推測されます。
これらのビジネスライセンスに関わる事業については、WTOコミットメント※に記載がありませんが、上記のように既に外資で事業を始めている会社があるので、外資であってもオンラインモールを運営することは可能です。
※ベトナムで外資企業が企図する事業を行うに先立っては、WTOコミットメントを参照して外資規制の有無を確認する必要があります。
2)セールスECサイトについて
セールスECサイトにおいては、郵便及びインターネット上で注文を受けて小売を実施するサービス:VSICコード4791の事業ライセンスの登録が必要となります。また、その他取扱商品に応じて、該当する小売に関するビジネスライセンスの登録が必要になります。
また、WTOコミットメントによれば、一部の商品(タバコや、薬品、宝石等)を除き、商品の小売流通権、輸入権、輸出権に対する公約が設けられているので、規制商品を取り扱わない限りは、外資であってもセールスECサイトで商品を販売することができます。
4 商工省からの許可(サブライセンスの取得)
前記のビジネスライセンスの取得に加えて、オンラインモール、セールスECサイトの運営を行う為には政令09/2018/ND-CP号に基づき、それぞれの事業(ウェブサイト)に応じた商工省からの許可(これらの許可について「サブライセンス」と表現される場合もあります)を取得する必要があります(オンラインモールの場合は、E-commerce trading floorに関わる許可を、セールスECサイトの場合は小売り事業に関わる許可をそれぞれ取得する必要があります)。
5 ウェブサイトの登録と通知
1)オンラインモールについては、当該ウェブサイトを商工省に登録する義務があります(政令52/2013/ND-CP(以下「政令52号」といいます。)36条1項)。登録されているウェブサイトには下記のマークがそのウェブサイト上に存在し、当該マークをクリックすると、商工省のウェブサイトにアクセスされ、その登録情報を確認することができます。したがって、正規のウェブサイトかどうかは、当該マークをクリックして商工省のウェブサイトにアクセスすることによって確認できます。
2)セールスECサイトについては、オンライン通知キットを介して通産省(MOIT)に通知する必要があります(政令52号53条)。
6 販売禁止商品
オンラインモール、セールスECサイトでは、以下の商品の取り扱いは禁止されています(通達47/2014/TT-BTC号3条)。
① 散弾銃及び 弾丸、スポーツ用武器、戦闘装備
② タバコ、葉巻、その他の類似品
③ アルコール飲料(但し、ベトナム法上ビール等はこの定義から除外されます)
④ 希少な野生生物及び植物(種子等も含む)
⑤ その他の個別法令で取引が制限されているその他の商品
7 その他の義務等
1)オンラインモールの運営者
オンラインモールの運営者として、国家機関に対する情報公開や、利用者に適切な情報等を提供する義務を負うとともに(政令52号36条)、取り扱う商品に欠陥があった場合には、商品の輸入者として商品の回収や購入者に対する損害賠償を負う場合があります(消費者権利保護法59/2010/QH12号(以下、消費者権利保護法といいます)22条、23条)
2)セールスECサイトの運営者
利用者の個人情報保護や、必要な場合に国家機関の要求に応じてビジネスの状況に関する情報の提供義務等を負います。
また、オンラインモールの運営者と同様に、消費者権利保護法に従い商品の回収や、損害賠償の義務を負う場合があります。