公開日:2019/08/16
ベトナム労務シリーズ① 就業規則編
1 筆者紹介
私が執筆する初めての記事になりますので、簡単に自己紹介をさせて頂きます。私は、キャストベトナムで執務を行っている島﨑雄太郎と申します。日本の弁護士資格があり、またベトナムの司法省に登録している外国人弁護士(ベトナムの弁護士資格とは異なり、外国の弁護士であることを正式に登録して活動できる資格)です。
クイックベトナム代表の古屋さんに、当ホームページ上で記事を執筆する機会を頂きまして、今月から毎月1本、法務に関する記事を執筆させて頂く予定です。皆様、宜しくお願い致します。
【執筆者 島崎雄太郎さんの詳細情報】https://cast-group.biz/profile/yutaro_shimazaki/
2 ベトナムの就業規則について
ご覧になっている方は、ベトナムで会社を運営されている方やベトナムで働いている方が多いと思いますので、ベトナムの労務制度を身近に感じている方が多いでしょう。労務といっても様々ですが、今回のテーマは「就業規則」です。就業規則は、ベトナムでも労務の根幹となる文書の一つで、これがなければ懲戒手続ができないなど、会社にとって大きな影響を有するものとなります。また、就業規則の概要を知ることでベトナムの労務自体の特徴も把握できますので、今回は就業規則の一般的な内容を解説します。
1)就業規則の作成義務
ベトナムの労働法(以下、「労働法」といいます。)上、10名以上の労働者がいる場合には就業規則の作成が必要とされています(労働法119条1項)。
労働者が10名以下の会社では、就業規則の作成が法令上義務付けられませんが、義務がなくとも作成しておくことをお勧めします。ベトナムでは、法令上認められている懲戒事由であっても就業規則に記載のない事項は労働者に適用することができないからです(同法128条3項参照)。つまり、労働法上、労働者が窃盗等の犯罪を行った場合、当該犯罪行為は懲戒事由とされていますが(126条1項)、就業規則自体が存在しないと、労働者が犯罪を犯したとしてもそのことを根拠に懲戒解雇できない可能性が高いです。
2)法定の記載事項
就業規則の法定記載事項は以下の通りです(労働法119条2項)。
① 勤務時間および休憩時間
② 職場における秩序
③ 職場における労働安全・労働衛生
④ 使用者の資産、経営もしくは技術上の秘密または知的所有権の保護
⑤ 労働者の労働規律違反行為に対する懲戒処分の形式・物的賠償責任
②、③についてはイメージしづらいと思いますが、②は例えば、就業時間の順守など、労働者が守るべき規律です。③は、労働者が安全基準を順守することや、会社が防災システムを構築しなければならない等、職場の安全に関わる規律等です。
以上が法定記載事項ですが、人事異動や、賃金の算定・支払い方法等についても定めている企業が多いです。
3)労働組合からの意見聴取
就業規則の作成に当たっては、労働法上労働組合からの意見聴取が必要とされています(労働法119条3項)。この際注意しなければならないのは、社内に労働組合が存在しないとしても同義務の履行を免れないということです。ベトナムでは、各会社の労働組合の上部組織として地域を管轄する上部労働組合 (各会社の労働組合とは別に、地域の労働組合が存在します。)が存在するので、社内に労働組合がない場合は、当該地域を管轄する労働組合からの意見聴取が必要となります。
4)就業規則の登録
ベトナムでは、作成した就業規則を国家管理機関である労働・傷病兵・社会局(DOLISA)の地域管轄当局(以下「労働当局」といいます)に登録しなければなりません(労働法120条1項)。登録に当たっては労働当局から、事実上承認を得なければならず、修正や補正を命じられる場合があります。修正や補正は、建前としては労働法等の関連法令に違反している場合等に命じられることになっていますが、実際には担当者が見たことのない規定がある場合や、法令違反がなくとも多くのベトナム企業と形式の異なる就業規則である場合等にも修正等が命じられる場合があります。
5)内容に関する注意点
ベトナムは共産主義国家ですので、労働者の権利は厚く保護されます。原則として、労働法に定められているよりも労働者に不利な規定を定めることはできないと解すべきです。具体的な内容に関する注意点について、いくつか言及します。
① 懲戒処分
懲戒処分については、㋐譴責、㋑6か月以内の昇給停止、降格、㋒解雇の3種類のみ行うことができます(労働法125条)。したがって、この3つ以外の形式の懲戒処分を就業規則に定めることはできません。日本と異なり減給処分ができませんので、この点注意が必要です。
② 兼業禁止
日本企業では、従業員の兼業禁止について定めている企業も多いと思います。この点、ベトナムでは、労働者に兼業の権利が保障されている(労働法21条)ので、兼業禁止規定を設けたとしても無効と解釈される可能性が高いです。
③ 人事異動
労働契約に定めた業務と異なる業務を労働者に行わせる場合、原則として労働者の同意を得ることが必要とされています。労働者の同意がない場合、自然災害等のやむを得ない事由や、経営上の必要性がある場合で、かつ1年につき60営業日を超えない範囲で、労働契約で定めた業務と異なる業務を行うことができるとされています(労働法31条1項)。
したがって、日本の就業規則では人事異動につき使用者に広範な裁量が認められている場合が多いですが、ベトナムで同様の規定を設けたとしても無効とされる可能性が高いです。
3 最後に
就業規則に関わる論点については多岐に渡りますが、皆様のお役に立てそうなものを中心に簡単に述べさせていただきました。ベトナムの司法制度上、解釈が分かれる点についての結論は必ずしもはっきりしません(この点については別の機会に記事にできればと思います)ので、個別具体的に考えながら就業規則を作成していく必要があります。
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