公開日:2020/07/17
ベトナムの弁護士資格について
1 はじめに
時々、ベトナムの弁護士資格を保有しているのかと尋ねられることがあります。私は日本国籍なので、ベトナムの弁護士資格を取ることはできません(詳細は後記を読んでください)。日本の弁護士資格をベトナムの司法省に登録して外国人弁護士として活動しています。
また、ベトナムではどういった過程を経て弁護士になるのかと聞かれることも良くあります。この点について皆さん意外と関心があるようなので、今回はベトナムの弁護士資格(なり方)について書きたいと思います。
2 弁護士になるための資格(前提条件)
ベトナムで弁護士になることができるのはベトナム国籍の保持者に限られます。また、法学士(法学部等を卒業している人)でなければなりません。そのため会計等その他の学位を有する人が、弁護士になりたいと思う場合には改めて学位を取り直す必要があります。
この点、日本国籍・法学士、双方の資格が不要な日本とは異なります。もっとも、私が知る限り、日本で育った外国籍の方以外で日本の弁護士資格を取られている方を知りません。外国人にとって日本語の読み書きのハードルが高いこと等が原因かもしれません。
3 資格取得のための研修・試験等
1)弁護士業務研修
まず、法学士を有する候補者は、弁護士業務研修施設において、12ヶ月間の弁護士業務の研修を受けなければなりません。弁護士業務研修施設はベトナム国内でハノイに本部施設があり、ホーチミンに支部が存在します。施設としてはこの二つになりますが、ハノイ及びホーチミンの各施設は、他の各省でもクラスを開催しています。
弁護士業務の研修というと日本の司法修習のようなものを想像するかもしれませんが、従来は座学中心の学校で授業を受けるような形式のものでした。しかし、現行の決定第873/QD-HVTP号により、単位取得のスキームが変更され、必修の39単位中、4単位は法律事務所等で実習を行うことになりました(期間は概ね2か月程度)。この実習終了後、報告書を作成し、報告書の内容と面談により実習結果が評価されることになりました。
当該研修については、平日毎日受講するコースと週末に集中的に受講する2種類のコースがあり、12ヶ月間の間、祝日を除いて基本的に休みがありません。多くのベトナム人は仕事をしながら当該研修に参加するのでこれを修了するのはなかなか大変で、途中で通えなくなって挫折したり、12ヶ月間の期間を延長して当該研修を修了する人も少なくないようです。研修の最後に試験を受けて合格すると研修の修了証明書が付与されるというのが従来の方式でしたが、前記の単位取得のスキーム変更により、最後の試験はなくなりました。今では、必修の39単位を取ったら当該研修が修了し、修了証明書が付与されることとなっています(ホーチミン市では2020年から運用)。
2)弁護士業務の実務研修
弁護士業務の研修を修了した者は、弁護士事務所での12ヶ月間の弁護士実務研修に進みます。弁護士事務所は我々のような外資組織でも良いのですが、研修の責任者となる指導弁護士はベトナムの資格者(つまり、ベトナム人弁護士)でなければなりません。指導弁護士となる者の条件は、3年以上の実務経験があることと弁護士会の懲戒の対象となっていないことです。
実務研修を受ける者は、修習先の弁護士事務所の本店所在地の弁護士会に、実務修習の登録をしなければなりません。この登録の日から12ヶ月間が実務修習の期間となります。当該期間中は指導弁護士の補助や、訴訟への同行ができ、日本の弁護士修習の内容と類似します。もっとも、日本は法曹一元制度で、司法試験の合格者の中から、裁判官、検察官、弁護士の資格者を選定することになっていますから、弁護士の候補者は、弁護士の実務研修のみならず、裁判官・検察官の実務研修も受けます。この点は大きく異なっています(ベトナムで裁判官、検察官になるには異なる過程を経る必要があります)。
3)実務修習結果の評価試験
実務研修を修了した者は、実務修習結果の評価試験を受験します。試験は筆記と後述の試験です。この試験に合格すると、弁護士免許の発行を申請できます。
4)弁護士会への入会
弁護士免許の発行を受けても、まだ弁護士の業務を行うことはできません。弁護士としての業務を行うためには弁護士会への入会が必要で、弁護士会への入会を経て、晴れて弁護士としての業務を行うことができます。
4 最後に
上記の評価試験の合格率については、年によっても異なるようなので一概にはいえませんが、基本的には50%を上回るようです。合格率だけみれば日本よりも資格取得が簡単といえますが(日本では2008年度の司法試験以降、合格率は概ね20~30%の間で推移しています)、仕事をしながら研修所に通う等、資格の取得はけして簡単なものではないといえます。