公開日:2021/02/19
ベトナム新労働法の細目を規定する新政令について
1. はじめに
ベトナムの新労働法45/2019/QH14(以下「新労働法」といいます)が本(2021)年の1月1日から施行されており、新しい労働法の変更点等について言及されている多くの記事を目にします。また、本(2021)年の2月1日からは、上記の新労働法の施行に伴い、その詳細を定めた新しい政令145/2020/ND-CP号(以下「政令145号」といいます)が施行されています。政令145号については、まだ施行されて間もないこともあり、その内容について記載されている方は多くないようです。そこで、本稿では当該政令145号の中から重要と思われる点についていくつか言及していきます。
2. セクシャルハラスメント
1)セクシャルハラスメントの予防・対応
新労働法の施行により、会社は就業規則に職場でのセクシャルハラスメントの防止策、セクシャルハラスメントがあった場合の処分等の手続きを定めなければならないとされており(新労働法118条)、新労働法はセクシャルハラスメントについてより厳しい対応を行うことを示しております。
そして、新労働法はセクシャルハラスメントについて「ある者の他の者に対する、本人の意に反する又は同意のない、性的な性質を有する言動」と定義されています(新労働法3条9項。訳は、JETROの右記の翻訳を記載しております。https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/vn/business/pdf/45-2019-QH14-jp.pdf)
2)セクシャルハラスメントに該当する行為
政令145号によれば、セクシャルハラスメントには身体的接触を始めとする行為によるもの、言動によるもの、のみならずボディランゲージや、電子機器などを利用してわいせつ物を提示しそれを見せる等間接的なわいせつ表現も該当するとされています(政令145号84条2項)。
3. 懲戒処分の手順
労働者に規律違反があった場合、懲戒を行い適切な処分を下す必要があります。懲戒を行う場合には、以下の手続きを実施しなければならず、これらの手順を遵守せずに行われた懲戒処分は無効とされる可能性があります。特に懲戒解雇を実施する場合には、後々当該手続きが無効とされると、遡って給与相当分の金銭を相手に支給し、また違法な解雇に伴う給付もしなければなりません。以下の手続きの内容を把握しておくことはとても重要だといえます。
1)聴聞会の開催
懲戒処分を行う場合、聴聞会を開催して、労働規律違反についての聴取を行わなければなりません。
① 聴聞の通知
聴聞会が実施される少なくとも5営業日前までに、懲戒の対象となっている労働者(以下「対象労働者」といいます)、対象労働者が労働組合の構成員である場合には労働組合、対象労働者に代理人がいる場合はその代理人(以下、これらの聴聞に参加する者を「参加人」と総称して呼ぶ場合があります)に対して、聴聞会の日時や場所、規律違反の内容等を通知しなければなりません(政令145号70条2項a号)。
② 開催日時の変更
参加人のうちいずれかの者が参加できない場合、会社と対象労働者は聴聞の日時や場所等について変更の合意をすることができますが、合意に達することができない場合、会社は懲戒について最終判断を下すことができます(同項b号)。
会社は、上記の通知に記載されている、または変更の合意をした日時や場所で聴聞会を実施し、仮に参加人のいずれかの出席が確認できない場合であっても聴聞会を遂行することができます(同項c号)。
③ 議事録の作成
聴聞会を実施した場合、議事録を作成しなければならず、聴聞会が終了するまでにその議事録に参加人の署名がなされなければなりません。参加人が署名を拒否する場合には、議事録の作成者は、拒否者の氏名と拒否の理由を議事録に記載することによって参加人の署名に代替します(同条3項)。
2)処分の実施
聴聞の終了後、懲戒の時効期間内(原則は、規律処分違反行為から6ヶ月以内ですが、会社の機密事項にかかわる規律違反行為は1年とされています(新労働法123条))に懲戒の内容を決定し、参加人にその内容を通知します(同条4項)。
4. 試用期間の法的な性質
1)退職手当等を算出するための雇用期間への参入
政令148/2018/ND-CP号(以下「政令148号」といいます)により、試用期間は、退職手当および失業手当の金額を算出するための雇用期間には含まないこととされていました。しかし、政令145号8条3項により、試用期間も退職手当および失業手当の金額を算出するための雇用期間に含まれることとなりました。
2)試用期間における社会保険料の納付
試用期間については、労働契約ではなく試用契約を締結し、その後正式な労働契約を締結する方法が今まで一般的でした。これは、労働契約を締結してしまうと社会保険料の納付が必要になってしまい、会社にメリットがないことが一つの理由でした。
しかし、上記の改正により、試用期間についても労働契約を締結し(この場合、労働契約の中に試用契約の規定を置くことになります)、社会保険料の納付を行うメリットがあることになります。すなわち、社会保険料の納付期間については、退職手当を算出するための雇用期間に含めないとされているため(労働契約46条2項)、会社はもし試用期間中も社会保険料の納付を行っていれば、試用期間中の雇用期間に相当する退職手当についても自らの負担で拠出しなくて良いことになります。
一般的には、試用期間の社会保険料の納付金額よりも、試用期間中の雇用期間に相当する退職手当の金額の方が大きくなるので、純粋に支出の大小だけでみれば試用期間中も社会保険料を納付した方が得となります。