公開日:2021/04/16
ベトナムの傷病休暇と労働災害の概要について
1.はじめに
日本においては、労働者が病気になって業務に従事できないとき健康保険法に基づき、傷病手当金を受給することができます(詳細は同法の第99条をご参照下さい)。
また、業務中に怪我等をした場合には、労働災害となり、社会保険給付を受けられる場合があります(詳しくは、労働者災害補償保険法をご参照下さい)。
ベトナムにおいても、日本と同様に、傷病に関わる社会保険制度と、労働災害についての制度が存在します。
本稿ではこれらの制度の概要について解説していきます。
2.傷病休暇について
1)傷病休暇を取得できる者
以下に定める者は、傷病休暇を取得することができ、また社会保険給付を受けることができます(通達59/2015/TT-BLDTBXH号(以下「通達59号」といいます)第3条)。
① 労災に当たらない病気または事故により休暇をとる者で、指定の医療機関が発行する診断書等必要な書類を取得した者
② 7歳未満の子供を看病するために休暇をとる者で、指定の医療機関が発行する診断書等必要な書類を取得した者
③ 産休が満了する前に職場復帰した女性労働者で、上記の①、②のいずれかに該当する者
※1 ただし、薬物や飲酒の影響により疾病を抱えた者については上記の対象から除外される可能性があります。また休暇(年次有給休暇・私的休暇・無給休暇)中に病気等になった場合や、産休中の者についても同様です。
※2 上記の必要な書類についての詳細は、決定166/QD-BHXH号(以下「決定166号」といいます)第4条に規定されています。
2)傷病休暇における給付期間
① 労働者自身の傷病の場合
通常の労働条件(危険でない労働環境)で勤務する労働者は、以下の期間傷病休暇を取得することができます(法律58/2014/QH13号社会保険法(以下「社会保険法」といいます)第26条第1項a号)。
・ 社会保険料の納付済み期間が15年未満の場合、最大30日間
・ 社会保険料の納付済み期間が15年以上~30年未満の場合、最大40日間
・ 社会保険料の納付済み期間が30年以上の場合、最大60日間
※ 危険な労働条件等、その他の場合については社会保険法第26条第1項b号と第2項をご確認下さい。
② 子供の傷病の場合(社会保険法第27条)
・3歳未満の子供の場合、最大20日
・3歳から7歳未満の子供の場合、最大15日
3)社会保険給付の法定処理期間
会社が申請を行う場合には、必要な書類が提出されてから6営業日以内に、該当する労働者自らまたはその親族が申請する場合には、3営業日以内に処理されると規定されています(決定166号第5条4項)。
4)傷病手当が支給されている際の給与について
会社は、労働者との間で別段の合意がある場合を除き、労働者が社会保険給付を受けている期間は給与を支払う必要がありません(法律45/2019/QH14号労働法第168条第2項)。
3. 労働災害について
1)労働災害の対象者
以下の①~③要件を満たす者は、労働災害の対象者となります。
① 以下の事故等に遭遇した者(法律84/2015/QH13号労働安全衛生法(以下「労働安全衛生法」といいます)第45条第1項)
・職場および労働時間中に発生した事故
・雇用主の指示にしたがって業務を行い、職場以外または労働時間外に発生した事故
・出退勤中に遭遇した事故(適切な時間に適切なルートを選択していた必要があります)
② ①の事故により、労働能力が5%以上喪失した者
③ 当該事故が以下の原因に基づかないこと
・業務に関係しない喧嘩など
・労働者が故意に事故の健康を害した
・麻薬等の薬物の使用
・その他通達26/2017/TT-BLDTBXH号第11条に規定する場合
2)労働災害発生後の会社の主な責任
会社は、労働災害発生後、概ね以下の責任を負担します(労働安全衛生法第38条)。
① 労働災害に遭った労働者の応急措置救護を迅速に行い、また労働災害・職業病の被災労働者の応急措置救護および治療に係る費用を立て替える。
② 労働災害・職業病の被災労働者の応急措置救護から治療までの発生費用について、次の通りに支払う。
a)共済金および医療保険加入の労働者に対し、医療保険負担費用一覧に該当しない費用を支払う。
b) 雇用者が医学鑑定評議会にて労働能力の喪失率鑑定のための診察を受けるよう労働者に勧めた結果、その労働能力の喪失率が5%未満の場合、労働能力喪失率鑑定で発生する費用を支払う。
c) 医療保険に加入しない労働者に対し、医療費を全額支払う。
③ 治療や労働機能回復期間により欠勤した労働災害・職業病の被災労働者に給料を充分に支払う。
④ 労働者本人の過失によらない労働災害の被災労働者、および職業病に罹った労働者には次の通りの補償を行う。
a) 労働能力の喪失率が5%から10%までの場合、補償金は月給の1.5倍以上の金額とする。労働能力の喪失率が11%から80%までの場合、喪失率1%あたり月給の0.4倍の金額を増額する。
b) 労働能力の喪失率が81%以上の場合、および労働災害/職業病により死亡した労働者の遺族には月給の30倍以上の補償金を支払う。
⑤ 労働者本人の過失により労働災害に遭った場合は、労働能力の喪失率に応じて④に規定する補償金の40%以上を給付する。
⑥ 労働災害に遭った労働者および職業病に罹った労働者が法律の規定に従って労働能力の喪失率の医学鑑定、治療、介護、機能回復を受けられるように紹介する。
⑦ 労働能力の喪失率の医学鑑定評議会が結論を出した時点から、あるいは死亡事故において労働災害の調査団が労働災害の調査記録書を公表した時点から5日以内に、労働災害に遭った労働者および職業病に罹った労働者に補償および手当を給付する。
⑧ 労働災害・職業病の治療および機能回復した後に業務を継続する労働者に対し、医学鑑定評議会の結論に基づいて、当該労働者の健康状態に応じた業務に配置する。
⑨ 法令に規定する労働災害・職業病の保険基金から労働災害・職業病の保険制度適用申請書類を作成する。