公開日:2019/11/15
ベトナム労務シリーズ② 労働組合1
1 はじめに
今回は、初回以来の労務シリーズです。ベトナムにおける労働組合について説明します。
ベトナムで製造業等を営む場合、社内に労働組合を設立するのが一般的です。これらの業種に勤務(経営)する方々にとってはなじみのある話題だと思います。いわゆるオフィスワークを行う会社では、社内に労働組合がないことも多いです。しかし、労働法188条3項は、社内に労働組合がない会社では、自社内に労働組合が設立されるまでの間、上級労働組合が代わって責任を履行する、と規定しています。また、自社内に労働組合が存在しない会社でも労働組合費の支払い義務を負う等、労働組合はベトナムで事業を営む以上避けては通れない存在です。
この記事では、労働組合に関する法令上の制度設計、設立の流れや組合費について説明したいと思います。
その他、会社の制度設計上、労働組合が関わる重要な場面として、就業規則の作成への意見、懲戒への関与等があります。また、労働組合との対話や労使交渉も別途必要になります。これらの部分も重要ですので、それはまた次回説明したいと思います。
2 労働組合に関する法令上の制度設計
ベトナムの法令では、労働法第8章に労働組合に関する章が設けられています。ここでは、労働組合の役割、使用者が労働組合活動を妨害してはいけないこと等、労働組合に関する基本原則が記載されています。その他第8章以外にも、労働法には、就業規則作成時に労働組合の意見聴取をしなければならないこと(119条3項)等、労働者の権利保護の為に必要な手続きに関与する場合の定めがあります。
労働組合に関する規律については、より具体的な内容を記載した労働組合法が存在します。同法令には、労働組合の組織体系や、労働組合及び組合員の権利義務、労働組合の財源等について定められています。その他、労働組合法に関連する各種政令、決定等が存在しています。
日本人に特にイメージしづらいものとしては、「ベトナム労働組合の定款」(労働組合法4条8項)というものがあります。これは、ベトナムの国の労働組合が定める定款で、労働組合に関する規律の一部を規定しています。
3 労働組合の設立の流れ
ベトナム労働組合の定款16条によれば、労働組合参加申請書に労働者5人以上の署名がある場合には、会社は労働組合を設置しなければならなくなります。組合設置の具体的な手続きの流れについて以下に記載します。
1)労働組合参加申請書の回付
労働組合参加申請書をまず労働者に回付します。㋐もし組合参加賛成者が5人以上であれば、組合を設置する手続を開始します。㋑もし組合参加賛成者が5人未満であった場合には、上級労働組合にその旨を書面で通知しなければなりません。㋑の場合には、上級労働組合が会社を訪問し、労働者に労働組合を設立するよう説得を行うそうです。
2)暫定的労働組合参加申請書の提出
労働者5人以上の署名が集まった場合、会社は担当地区の上級労働組合に、ERC(企業登録証明書)とともに、暫定的労働組合参加申請書を提出します。
3)労働組合組織の構成
①労働組合設立1年目については、暫定的執行委員会が設置されます。当該委員会は、労働組合員の中から、三人の委員が選ばれそのうち一人が会長とされます。残りの二人の委員は、一人が経費管理者となり、もう一人の委員については肩書無しの委員となります。選ばれた執行委員三人の履歴・個人情報リストを上級労働組合に提出し、暫定的執行委員会として任命してもらうことにより、正式な暫定的執行委員会となります。当該委員会はあくまで暫定的なものですのでその任期は1年となります。
②労働組合設立2年目以降は、正規の執行委員会が設立されます。会社内の労働組合員は、執行委員会を選任するための会議を開催し、投票を行います。当該投票によって選ばれた執行委員会の任期は5年となります。これ以降は、5年ごとに会議が開かれ、執行委員会が選任されていくことになります。
4)組合費の納付について
労働組合費の納付及びその他の関連情報をまとめると以下の表のようになります。
会社及び労働者の負担比率 | 上級組合に納付する比率 | 納付方法 | 備考 | |
会社 | 社会保険算出用の給与の2%です(労働組合法26条2項)。 | 会社が納付する金額の69%は会社内の労働組合に供与されます(Hướng dẫn2212/HD-TL。つまり、上級労働組合に納付する割合:31%、会社にて自主管理する割合:69%となります)。 ※社内に労働組合がない会社でも、社内の担当者が留保分を管理します。 |
上級労働組合に納付する分(31%)は、上級労働組合の口座へ振り込みます。 会社にて管理される分(69%)は組合執行委人会の代理人を定めて、その代理人に現金を供与するか、又は、労働組合が開設した口座に振込を行うことになります。 |
会社が納付する金額は損金算入できます。 |
労働者(給与から天引されます) | 上限は、労働者の給与の1%であり、毎年定められる公務員の基準給与額の10%以内の金額とされます(決定1908/QÐ-TLD23条3項)。 ※例えば、2019年度の公務員の基準給与額については、Nghị Quyết 70/2018/QH14が、149万VNDと定めています。 |
労働者が納付する金額の60%は会社内の労働組合に供与されます(Hướng dẫn2212/HD-TL。つまり、上級労働組合に納付する割合:40%、会社にて自主管理する割合:60%となります)。 | 上記と同様です。 | 労働者が納付する金額は個人所得税として課税されます。 |
5)組合費の使用例
会社に留保された組合費については、社員旅行等の労働者の福利厚生のために使用することができます。