公開日:2020/04/17
新型コロナウィルスとベトナム労働法の関連規定について
労働・傷病兵・社会省から、2020年3月25日付Official Letter 1064/LDTBXH – QHLDTL(以下「通達1064号」という)が発行されています。1064号においては、労働法の解釈に関する内容が記載されていますが、従来からの労働法の解釈に沿った内容であり、特に目新しい内容は記載されていません。
もっとも、昨今の新型コロナウィルス(以下「新型コロナ」といいます)流行下における労働者の処遇を考える上では一つの指針となると思いますので、労働者に対する処遇や、1064号に記載されている労働法とその関連法令に関する解説について記載していきたいと思います。
なお、本稿では2020年4月10日現在に分かっている情報を下に記載しておりますので、その後記載を変更しなければならない可能性があること、また法律の要件については分かりやすいように簡易に記載していることについてご理解ください。
1 リモートワーク下の労働者
リモートワークが可能な業務を行う労働者については、原則従来通りの待遇が必要となります。但し、通勤手当等、通勤がなくなるに伴って不必要となる各種手当についての変更は可能と考えます。
2 労働者の異動(労働法31条・通達1064号3項)
① 新型コロナの影響により、労働者に十分な業務を提供できない場合、労働契約で定めた業務と異なる業務へ労働者を異動させることができます。
② 但し、労働者の同意がない異動については60営業日を超えて、労働者の異動を継続させることはできません。
③ 異動に伴い、30営業日については異動前の給与を保証しなければならず、それ以降に給与を減額する場合でも従来給与の85%を下回ってはいけません。
3 休業手当(労働法98条)
新型コロナの対応については、多くの場合③の対応が必要になると考えますが、休業手当に関わる労働法の規定は以下のようになっています。
① 政府指示の不遵守等、会社に過失が認められる労働者の休業については給与が全額保証されます(98条1項)。
② 労働者の過失による休業については、会社は給与を支払わなくてよいとされています(98条2項)。
③ 使用者・労働者の双方に過失が認められない休業については、労働者の給与は合意により定める必要があり、その給与額は最低賃金を下回ることはできません。
④ ③の場合で、合意がない場合の給与額については、現在明確な指針が存在しません。これまでの労働紛争に関する裁判例を参照するかぎり、労働契約書上の給与を支払わなければならないと判断される可能性が十分あります。
そのため、給与額について労働者と合意ができず、かつ会社の財務状況により給与の支払いが難しい場合には、後記5項又は6項による労働契約の解除を検討することになります。
4 労働契約の一時履行停止(通達1064号3項・労働法32条5項)
休業期間が長引くことにより給与の支払いが困難になる場合は、会社と労働者は合意により労働契約の履行を一時停止することができます。
5 会社からの一方的解除(通達1064号・労働法38条1項c号)
新型コロナにより休業、経営規模の大幅縮小を余儀なくされている会社も多いので、このような会社は一方的解除の検討が必要となります。
1)労働法38条1項は、㋐不可抗力事由の存在、㋑会社が可能な限りの手段を尽くしたが解雇を行わなければならないことが要件となっています(手続きとしては事前通知が必要〔有期契約:30日以上前、無期契約:45日以上前〕)。
2)㋐の要件については、政令05/2015/ND-CP(以下「政令05号」という)が不可抗力事由として「伝染病」に言及しているので問題ないといえます。
一方で、㋑の要件については厳格な要件なので、一方的解除に踏み切る場合にはしっかりとした証拠固め(関連する資料をきちんと残しておくこと)が、後に紛争が生じた場合に備えて肝要だといえます。
3)加えて、この方法による解雇は下記6項による解雇と重畳適用される場合があるにも関わらず、㋒失業手当を給付しなくてよい、㋓手続きが簡便であることから、後々紛争になった場合、裁判所が下記6項の方法による解雇が必要だったと判断する可能性もあるため注意が必要です。
6 経済的理由による解雇(通達1064号・労働法44条2項)
本項による解雇を行う場合、下記の要件や手続きが必要となります。
① 経済恐慌又は景気後退により二人以上を解雇しなければならず(政令05号13条2項a号、同条3項)、
② 会社が労働組合の関与の下労働使用計画書を作成したが、特定の労働者に対しては担当業務を用意することができない場合に
③ 労働組合との協議を実施し、
④ 省レベルの労働当局に解雇実施の30日前以上に、解雇の実施に関わる通知を行った後
⑤ 労働者に対して失業手当を支払わなければなりません(社会保険給付と退職の受領による一部の例外あり〔労働法49条2項〕)。
以上のように本項による解雇は極めて厳格な要件に基づいて実行される必要がありますので、本項による解除を実行した場合、5項による解雇を実行した場合に比して、後々の紛争リスクは低くなるといえます。