公開日:2022/11/15
1 【ベトナムにおける兵役と労働契約について】はじめに
ベトナムにおいては、日本と異なり兵役の義務が存在します。そのため、皆様の会社で勤務しているベトナム人のスタッフの方についても兵役の対象となる可能性があります。
本稿では、まずベトナムの兵役の概要について解説した後、兵役中、およびその終了後の労働契約について記述します。
2【ベトナムにおける兵役と労働契約について】
兵役の義務について
兵役については、兵役法78/2015/QH13号(以下「兵役法」といいます)が規定しています。同法4条2項によれば、一定の年齢に達したベトナム市民は、民族、信仰、教育レベル、職業、居住地等にかかわらず、同法に従って兵役の義務を全うしなければならないとされています。
1)徴兵の対象者について
① 性別
兵役法の第6条1項によれば、徴兵の年齢に達した男性市民は、兵役に従事しなければならないとされています。
女性については、平時であれば、原則として志願者のみ兵役に従事することになります。つまり原則、男性は強制、女性については志願制ということになります。
② 年齢
また、兵役法の第30条によれば、18歳から25歳までが徴兵の対象年齢とされます。なお、大学等に入学したことにより兵役を延期した者については、27歳になるまで徴兵の対象とされます。
③ その他の資格
兵役法の第31条によれば、
・適切な経歴を有していること
・法令や共産党の指針を遵守する者であること
・兵役に従事することができる健康状態を維持していること
・適切な教育水準を保持していること
も入隊の条件とされます。
2)徴兵延期の対象者、および免除者
① 延期対象者
兵役法の41条1項により以下に該当する者は、兵役の義務が延期されます。以下の事由はあくまで延期事由なので、当該事由が消滅した場合には、徴兵されることになります(同法41条3項)
・入隊前の検査により良好な健康状態にないことが認められた者
・労働能力を失った家族、または若年者(労働年齢でない者)を1人で養う者、また人民委員会により認定される危険な事故、災害、疫病により深刻な被害を被っている家族の唯一の稼ぎ手である者
・病気の兵士および枯葉剤の影響により労働能力の61~80%を失った人々の子供
・実の兄弟姉妹が人民軍に入隊中の者
・人民警察の職に就いている者
・3年以内に省以上レベルの人民委員会が決定する‘社会経済開発プロジェクトで経済社会状況が特に困難な地方に移住した者
・経済社会状況が特に困難な地方に赴任している公務員、青年ボランティア
・義務教育機関の在学者、大学、職業教育機関での高等教育を受けている者
② 免除者
以下の者については、兵役が免除されます(兵役法41条2項)。
・革命戦死(従軍)者または1級負傷兵の子供
・革命戦死(従軍)者の唯一の兄弟
・2級負傷兵の唯一の、枯葉剤により81%以上の労働力を失った者の唯一の子供、81%以上の労働力を失った病兵の唯一の子供
・人民軍・人民警察以外の機密・重要業務執行者
・経済社会状況が特に困難な地方に24か月以上赴任している公務員、青年ボランティア
3【ベトナムにおける兵役と労働契約について】労働契約と兵役
1)労働契約期間中の徴兵について
現行労働法10/2012/QH12(以下、「労働法」といいます)第32条1項により、労働者が兵役に服する場合は、労働契約の一時履行停止の事由にあたります。
したがって、労働契約期間中に従業員が徴兵された場合、当該労働契約の履行が一時停止し、その間従業員は会社で労働をする必要はなく、会社は給与等の支払いをする必要はありません。
2)兵役終了後の労働契約について
労働法の33条1項により、会社と当該従業員で別段の合意をしている場合を除き、従業員は兵役の終了から15日以内に職場に復帰し、会社は当該従業員に対して引き続き雇用を継続する義務を負うことになります。