公開日:2020/11/13
ベトナムにおける担保制度の概要について
1 ベトナムにおける債権管理
以前、債権管理に関する記事にも書きましたが(「日本企業のベトナム企業に対する債権管理の注意点・問題点」https://919vn.com/column/cast-law-vietnam/)、ベトナムでどのように債権を保全するかは、いつも悩ましい問題です。前記の記事にも記載していますが、ベトナムで契約の相手方の信用状態が悪化したり、関係がこじれた場合には、債権を回収するのは容易なことではありません。
そういった場合に備えて担保を取っておくことができれば債権回収の確率を高めることができるかもしれません。そこで、今回はベトナムの担保制度について説明します。
2 担保の種類
ベトナム民法上、以下の9種類が担保権として規定されています。
❶Cầm cố tài sản(財産の質)、❷Thế chấp tài sản(財産の抵当)、❸Đặt cọc(手付け)、❹Ký cược(預託)、❺Ký quỹ(供託)、❻Bảo lưu quyền sở hữu(所有権留保)、❼Bảo lãnh(保証)、❽Tín chấp(信用)、❾Cầm giữ tài sản(財産の留置)
※上記の訳はあくまで便宜上のものであり、必ずしも日本法上または日本語の用法と合致しないものもありますので、ご注意ください。
このうち、実務上利用されることが多いのは、日本法上の質権にあたる❶、抵当権にあたる❷です。以下では、日本とは少し異なる制度の抵当権を中心に記載し、質権と日系企業においても利用の可能性が高いと思われる❻の所有権留保についても簡単にふれていきます(以下、それぞれの権利を「質権」、「抵当権」、「所有権留保」と記載します)。
1)質権
ベトナムにおける質権は、質権者が、自己の債権を担保するために、質権設定者の財産について引渡しを受け自己の手元(支配下)において弁済を促すものとされており(民法309条)、日本法上における質権と大きな違いがありません。
※質権者=債権者、質権設定者=債務者となります。
2)抵当権
日本の民法においては「抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。」(同法369条1項)と規定されており、また、抵当権は地上権と永小作権にも設定可能ですが、基本的には不動産を対象とした担保権です。
一方、ベトナム法上においては、特に不動産に限らず成立することが前提とされています。日本法上の譲渡担保と抵当権を合わせたような概念がベトナム法上の抵当権となります。抵当権者は、抵当権設定者の財産に対して自己の債権を担保するために、抵当権設定者に当該財産を利用させたまま抵当権を設定することができます(民法317条)。
※抵当権設定者=債務者、抵当権者=債権者です。
① 不動産
㋐ 土地使用権
ベトナムでは土地は国家に帰属するものであり、個人の土地の所有権というのを認めていません。日本でいう土地の所有権にあたる(類似する)のが土地の使用権となります。したがって、土地に関する担保権の対象はその使用権になります。
法人が有する土地の使用権については金融機関のみが抵当権を設定できます(土地法(45/2013/QH)174条2項d号)。一方、個人が有する土地の使用権に対しては、金融機関の他、その他の法人も抵当権を設定することができます(土地法179条2項g号)。しかし、当該その他の法人には外資企業は含まれていないため(土地法3条27号)、日系の企業を含む外資法人は原則として土地の使用権を抵当にとることはできません。
㋑ 住宅
住宅の所有者が組織の場合、金融機関のみ抵当権を設定できます(住宅法144条1項)。
住宅の所有者が個人の場合、金融機関の他その他の法人も抵当権を設定することができます。そして法令上、前記その他の法人から外資企業も排除されていません(住宅法144条2項・3条14項参照)。したがって、相手方との間で担保権の設定に関わる契約が成立すれば、日系企業を含む外資企業であっても個人の所有する住宅を抵当に取ることが可能です。但し、現状においては、住宅の所有権の証明書が発行されていないので(制度としては発行されることになっていますが、実際に発行されていません)、担保権を公証する手段がありません。そのため、理論的には住宅に抵当権を設定することができますが、実務上住宅に対する担保権はそれほど広く用いられていません。
② 動産(機械類や製品など)
個別の機械類や製品について抵当権を設定することが可能です。また、我々が調べた範囲では、在庫製品及び材料の全体を担保に供している例を確認しています。
③ 債権
ベトナム法上、債権抵当についても認められています。抵当権の設定に当たっては第三債務者の承諾なしに、債権者と債務者の契約によって債権抵当を設定できます。もっとも、実務的には第三債務者が債務者に対して抵当権の存在を知らずに弁済してしまうことを防ぐため、第三債務者、債務者、債権者の三者で抵当権の設定に関わる契約を締結するのが一般的です。
3)所有権留保
ベトナム法上の所有権留保とは、弁済義務が完全に履行されるまで、売主が所有権を留保することによって弁済を促す担保権であり(ベトナム民法331条)、日本法上の概念と同様のものです。
3 登記(登録)
法令上、土地の使用権や、建物、船舶、航空機、森林の使用権(政令163/2006/ND-CP号第12条1項)等は登記が義務付けられていますが、その他の財産については、登記は任意となります。
もっとも、上記の三つの担保権(質権・抵当権・所有権留保)についてはいずれも登記(登録)が対抗要件となっているので、優先権を保持するために登記は行っておくべきです。
不動産(土地使用権・建物)に関する登記は、登記事務所(ベトナム語:Văn phòng đăng ký đất đai)に、その他の財産に関する財産については、原則として国家担保取引登録機関(ベトナム語:CỤC ĐĂNG KÝ QUỐC GIA GIAO DỊCH BẢO ĐẢM)がそれぞれ登記の取扱機関となります。
4 最後に
上記のように、ベトナムにおいては、製品や、原材料、債権等の財産に対して担保権を設定することができ、またこれらの権利について登記を行うことができます。
しかし、権利の登記ができても実際には、債務者の杜撰な財産管理により、担保価値がきちんと保全されていない場合や、債権抵当において第三債務者が勝手に弁済をしてしまった場合等には、裁判所への訴え提起が必要となります。この点については十分に留意して制度の利用を検討する必要があります。